YouTubeの「生きて山から帰るには」チャンネルでまとめていただきました(2025.8.3 追記)
2025.8.3 追記
このエントリに書いていた内容を、YouTubeの山岳遭難事例チャンネルの中ではおそらく最大手である、「生きて山から帰るには」でアニメーションつきで紹介していただきました。
www.youtube.com
一種の恥さらしであり、私も以前からこのチャンネルの視聴者なので、コメント欄でいろいろお叱りを受けることはわかっているのですが😅、バイクで走ってて遭難というのも珍しくて何かの参考になるんじゃないかなと、情報提供させていただきました。藪の中に突っ込んでさまよい始めてからは映像が残ってなかったのですが*1、アニメーションではかなりそれっぽく表現&解説されていて、当日の気分がリアルに蘇りました。
動画の内容については丁寧にやりとりさせていただき、すべて事前に私が確認しましたので、基本的な事実関係に間違いはありません。一方、あまり細かい点にこだわると動画が分かりにくくなったり、制作者の方に手間をかけたりしてしまうと思って、あえて修正や補足をお願いしなかった部分もあるので、念のためメモしておきます。
- 「普段は冷静で論理的」というふうにご紹介いただいており、まぁ工学部の准教授をやってますので一応論理的なほうではある気がしますが、行動においては計画性がなく、準備不足のまま思いつきで動いて色々やらかすタイプです💦安全意識も、バイク乗りとしては平均ぐらいかと思いますが、世間一般からみると低い方だと思います。
- お世話になった旅館の方は、アニメーションのイメージよりはもっと若く、30代ぐらいのようにお見受けしました。ちなみにその方は私が遭難した山の所有者で、後日バイクを回収するときも「見つからなかったら一緒に探しますよ」と言ってくださいました。動画でも述べられているように、素晴らしいホスピタリティに溢れた旅館ですので、ぜひ「岡山いこいの村」を多くの方に訪れていただきたいです。「生きて山から帰るには」チャンネルの制作者の方も泊まったことがあるとのことでした。
- ↓のエントリ本体にも書いてるのですが、私が迷っていたのは短時間ですし、後日地図で確認したらあと数十メートルで林道に復帰できる地点にいたので、仮に携帯の電波が繋がらず救助要請できなかったとしても、そのうち脱出できたかも知れません。雨も上がりましたし。なので、「この程度のことで遭難経験者ぶってもいいのかな?」という気恥ずかしさがあります。ただ、客観的には「プチ遭難」もしくは「遭難もどき」であったとしても、藪の中で迷っているあいだ、主観的にはほんとに「あー俺の人生ここで終わるんや」と思っていました。また、電話が繋がった直後ぐらいに完全に「真っ暗」になったのと、地図で林道があるかのように思える方向は急な登り斜面になっていたので、そのうち気力が尽きてしまった可能性や、道なき道なのでコケたり枝が目に入ったりで怪我するリスクもあった気はします。
- 動画の中でも、「林を歩いているというより、藪の中に埋もれている状態」という表現をしてもらったのですが、このイメージ伝わりますかねー。全身に木の枝、ツル、イバラがまとわりついて進みにくく、足元はフカフカの土と落ち葉と傾斜で、いつコケるか分からない。「藪の中」である上にメガネをなくしてたので、視界は前後左右2メートルぐらいしか見通せない。こうなると、「道に迷っている」という感覚ではなく、蜘蛛の巣にかかってあがいている虫のような気分でした(笑)
- この日、食料などをろくに準備せず入っていったのは、もともと「山に行く」というより、海岸沿いの「公園」のようなところをひとっ走りして帰るというイメージだったからです。道を把握するために登山アプリを用意してはいたものの、どちらかと言えば山じゃなくて海に行ったつもりだったんですよ(笑)下記は参考画像です。で、本線だけ走ってれば実際そんな感じなのですが、「半島ルート」と呼ばれている支線に入ったらけっこう道が険しくて、今回の事態になりました。事前の調査が甘かったです💦
虫明林道もおすすめ
— th-ωorks(ワークス) (@thworks1124) 2025年6月26日
海沿いの林道は珍しいらしいです
写真の辺りまでなら荒れてないのでゆっくり行けば問題ないかと思います pic.twitter.com/LRmoR2uxHf
- たぶんスタミナはもともとある方です。昔、趣味でフルマラソンを3時間半ぐらいで走っていたのと、5日半ぐらいの完全な断食(カロリーのない飲み物以外は全く摂らないもの)も2回ぐらいやったことありますが4日目ぐらいまでは何の変わりもなく仕事とかできていました。もちろん、だからと言って空腹の状態で山に入っていいということにはなりません。実際、「身体はギリギリ動くけど、頭はまったく動かない状態」になりましたので😱
- 動画のコメントで、「オフ車なんて軽いので、引き起こしでそんなに体力を消耗するはずはない。A氏は非力なのか?」と言われていて、たしかにもっと身体を鍛えないといけないとは思ったのですが、どちらかというと溝でスタックしたときの脱出で体力の大部分を消耗しました。最近は脱出のさせかたにもある程度慣れてきましたが、スタックって、イメージよりかなり疲れるんですよね。せいぜい15分か20分間の出来事だったのですが、そのあいだずっと、140kgのバイクを持ち上げたり押したり引いたりするので。あと、林道で転倒すると、斜面の低くなっている側に向かって倒れることもあって、平坦なところでの引き起こしよりはだいぶ辛くなります。足場もしっかり踏ん張れないし。そして、起こせたとしても、足つきの悪い880mmのシート高と窮屈なオフロードブーツと踏ん張れない足場で、またがること自体が一苦労なので、けっこうメンタルを消耗します。
遭難の概要
先日、オフローダーの間では「虫明林道」と呼ばれている、岡山県瀬戸内市の林道を走ってきました。途中までは快適だったのですが、帰りに道を間違えて行き詰まり、バイクを放棄して林や藪の中をあてもなくさまよう遭難状態になってしまって、警察に救助されました。今後の教訓のために、経緯をメモしておきたいと思います。
私が遭難したのは「大平山」というところで、標高が高いところでも260m程度の里山です。客観的に見れば自力で脱出できてもおかしくなさそうな場所ではあり、私がさまよったのはせいぜい40-50分程度(救助待ちは2時間半)、距離は300m程度ではありました。そして後で確認すると、あと少しで山道に復帰できるところまでは来ていましたので、遭難騒ぎにして救助要請するのは大げさかも知れません。
ただ、方向がわからない上に数メートル進むだけでもつらい藪の中で、日没が近く、雨が降っていて、携帯の電波はつながらず、身体は極度に疲労していて、食料や夜を越す装備はなく、しかもメガネを落としてしまうというふうに悪いことが重なっていたので、あのまま日が暮れて雨が止まなかったら、客観的に見ても危なかったかも知れません。また、主観的には自分の状況が分からないのでもっと悲観的で、時間も長く感じました。色々な遭難事例を読んでいたこともあり、「これ、体力と気力が尽きて夜を越せずに低体温症で死ぬやつやん!」などと思いながら、あてもなく歩いていました。しかし運良く、日の入り直後ぐらいの時間に携帯の電波が繋がるところへ出たので、それ以上自力で無理はしないことにし、電話で消防・警察に救助要請をしました。

経緯を大雑把にまとめると、以下のような流れです。
- バイクが溝でスタックし、脱出で体力をかなり消耗してしまう。
- さらにその後、急坂での転倒と引き起こしを3回くり返し、体力は限界に。
- 日暮れの焦りもあって、帰り道の分岐で地図の確認を怠り、道を間違える。
- 行き止まり地点でバイクを放棄し、徒歩で帰ることに。
- 来た道を「引き返す」判断をすればよかったが、無理やり前進すれば本来のルートに合流できるような気がしてしまい、道のない藪の中に突っ込む。(←最悪の選択)
- 数メートル進むのも難しい林の中を闇雲にさまよい、メガネを落とし、携帯の電波も繋がらず、水・食糧は持っておらず、雨が降っていて、日没も近いので死を覚悟。
- 雨と手の泥でろくに操作できなかったが、携帯圏外でも使えるGPS地図が一応生きていたので、大雑把に道のありそうな方向へ向少しずつ歩く。
- 日の入りの直後ぐらいに電波がつながり、消防・警察に救助要請。
- すぐに真っ暗になったので、そこから動かず2時間半ほど待ち、捜索にきた警官3名に救助される。
- 近所の旅館に泊まり、翌々日にJAFに手伝ってもらってバイクを回収。
↓の画像は、現場付近の地図と私の行程です。ベースは国土地理院の地図で、Google Map等には載っていない道も表示されているので、林道ライダーがよく使っています。


スタックと転倒のくり返しで体力を消耗し、帰り道を間違えて行き詰まるところまでは、動画が残っているので、それをまとめたのがこちらになります。
vimeo.com
以下、動画が切れたあとの経緯を説明します。
この時点で、とにかくヘトヘトに疲れていて「もう嫌だ」という精神状態だったことを前提にお読みください。
バイクを放棄してからの行動
バイクを放棄する際、放棄地点の位置情報をGPS地図に記録し、シートバッグに入っているモバイルバッテリーをリュックに移して、徒歩で出発しました。ここまでは良かったんです。険しい道はバイクで走るより歩いたほうが楽なのですが、バイクを放棄する決断ができずドツボにはまるのは林道ライダーあるあるで、その教訓はよく知っていたのでバイクを捨てることに躊躇はなかったです。
ただ、今から振り返ると、バイクを放棄した箇所でいったん休憩すべきだったと思います。少し休憩すると、思ったより体力が回復して心理的な余裕が生まれ、色々冷静に考えることができるので。
ところが、夕暮れが近いし雨も降っていたので「時間との戦いだ」と焦ってしまい、休憩するのも怖いと思っていました。そして、体力の消耗や雨の不快感(メガネが濡れて視界が悪くなるとストレス増えます)が重なって、「もうウンザリだ」という気分だったので、落ち着いて地図を確認することや、選択肢を比較検討することができませんでした。
それで、自分で振り返っても本当に「なぜそんな馬鹿なことを??」と理解できないのですが、来た道を歩いて引き返すのではなく、道のない茂みの中へと、吸い寄せられるように徒歩で突っ込んでいきました。「この方向に進めばルートに出られるはず」という根拠のない自信と、「引き返すのはめんどくさい」という気持ちが入り混じったような心境でした。
後日バイクを回収しに行った際に、自分が突っ込んだ藪の写真を撮ったのが、↓です。こんなところに突っ込むなんて、自分でも「頭がおかしい」としか思えません(笑)。写真を撮りながら、恐ろしくなりましたが、当時はアドレナリン等の効果で、恐怖心が吹き飛んでしまっていたのだと思います。

ちなみに放置していたバイクはこんな感じです↓

バイクを捨てた地点からみて、大雑把に「こっちのほうに帰り道のルートがある」というイメージは持っていたのですが、方角は合ってるものの距離感が全然違っていました。茂みのすぐ向こうに「道」らしきものが見えたような気がして、とりあえず少し進んでみるかと林の中に入っていったのですが、これが大間違いで、どれだけ進んでも木が生い茂っているだけでした。
また、そもそも林の中を歩くこと自体が簡単ではありませんでした。生い茂る木の枝やツルなどを掻き分けながら進む必要があって、手にイバラが刺さったりもします。足場は踏み固められていない土と枯れ葉なので非常に不安定ですし、傾斜は場所によって様々で、急な段差のようなところもある。少し気を抜いたら転倒してしまうという状態がずっと続いていました。大きな転倒すると一気に気力を削がれそうだし、捻挫などをするとジ・エンドなので、枝を掴んだり尻もちをついたりしながらゆっくり進みました。
現場は、木がポツポツ生えているだけの林ではなく、「藪の中に自分が埋もれている」という感じなので、路面状況などを見分けられる視界の範囲はせいぜい3-5mぐらいでした。しかも割と早い段階でメガネを落としました。これは痛恨です。私の裸眼視力だと、明るいうちは割とふつうに生活できるのですが、薄暗くなってくるとあまり見えません。
私は、携帯圏外でも(地図データを事前にDLしておくことで)GPSだけでナビゲーションできる登山用地図アプリを使っているのですが、画面が雨で濡れていることと、上述のような進み方をしていて手が泥だらけなので、ろくに操作はできませんでした。
なので、とりあえず当てずっぽうでしばらく歩いてみて、体力的に辛くなったら座れる場所を見つけて止まり、スマホをハンカチで拭く。すると運良くアプリの操作ができる時もあって、自分のだいたいの位置と方角が分かるという感じです。これを繰り返しながら進みました。
拭いているそばから濡れていくので何度も誤操作をしており、アプリを正しく操作・設定できているかもよくわからない(例えば地図は北向き表示なのか自分の向きなのかもよくわからん)ので、今表示されている情報を信用していいのかどうかは半信半疑でした。これには非常にイライラして、冷静さを失う要因の一つにもなりました。
その時の気分が言葉でうまく伝わるかわからないのですが、地図を正確に読めているのかどうか自信が持てないというストレスから、「しっかり地図に従って進もう」という気持ちにはあまりなれませんでした。スマホを見ること自体が腹立たしくなってしまっていたんです。いったん地図を確認した後も、「ま、それはそれとして、もう一丁、テキトーに気合で進んでみるか」という投げやりな態度になってました。
また、道がありそうな方向がわかったとしても、その方向にまっすぐ進めるわけではないのが苦しいところです。地面の傾斜や木の生え方によって動ける方向が制約されるし、4-5m進むだけでもいちいち気合を入れる必要があるので、とりあえず勢いで闇雲に歩いてみるしかないのですが、知らず知らずのうちにグルグル回っている時もあって、もう一度地図を確認してまったく進展がないことが分かると、かなり悲観的な気持ちになりました。
足場は悪く、窮屈なブーツを履いているので歩きにくいし、リュックがいちいち枝に引っかかることでも体力を削られました。よっぽど、リュックを捨ててやろうかと思ったのですが、モバイルバッテリーやら救急セットやらが入っているし、「パソコンを捨てたら明日〆切りの仕事ができなくなる」という、この期に及んではどうでもいいはずの懸念も頭をよぎって、結局捨てませんでした。でも、「体力がもっと限界に近づいたら、最後は捨てる判断も必要だな」とは思い続けていました。
なお、オフロード用のめちゃめちゃ固いブーツと、ニーブレース(膝が変な方向に曲がらないように固定するギプスみたいなもの)のお陰で、捻挫はしにくかったと思うし、枝やツルを蹴りながら進んでも痛くなかったのは、よかったです。チェスト(胸部・背部)プロテクターも頑丈なものをしていたので、枝が当たったときのダメージ軽減になったかもしれない。首から上はむき出しなので、何かが目に刺さったりすると危なかったと思いますが。↓は、ブーツとプロテクター類の写真です。

ちなみに途中から手袋を嵌めておらず(いつ脱いだかは忘れました)、イバラが手に刺さりまくったので、今も傷だらけで痛いのですが、彷徨っている間はアドレナリンのお陰で痛覚が麻痺していたのか、あまり気にならなかったです(笑)
さて、ちょうど日の入り時刻を挟んでさまよっていたので、あたりはだんだん暗くなっていきます。携帯での緊急連絡は何度か試みましたが、ちょうど谷間のようなところに入っていたのもあって、電波がつながりません。
遭難の事例はいろいろ読んでいたので、「今は歩けるが、このまま体力を消耗し続けて動けなくなるか、日没で真っ暗になって動く気力を失い、夜を越す装備を持っていない上に雨が降っているので、低体温症か何かで今夜のうちに死ぬんだろう」と覚悟しました。
なお、死ぬことへの恐怖感は特になかったですね。「死ぬときって意外とあっけないもんやな〜」「アホな死に方やな〜」という冷めた感じ。日没まではとにかく動こうと思っていて感傷に浸る余裕もなかったので、行方不明になった場合に何が起きるかなどを想像しながら淡々と進んでいきました。
じつはこの日、朝から何も食べていなくて、林道を走り終わったら近所のレストランに寄ろうと思ってました。昼ぐらいからは水も飲んでなかったと思います。このことも、恐らく疲労と判断力の低下につながってたと思います。事前に「虫明林道」を走行している他人の動画やブログ記事を見ていると、フラットで走りやすいという感じだったので、「ちょっと帰りに林道に寄って、走り終わったら近所のレストランに行こう」ぐらいの甘い考えで、水・食料の携行もしていなかったです。
後で記録をみると、私が実際に彷徨っていた時間は40-50分程度なので、「死を覚悟」するにはまだ早かったのだろうと思います。距離でいうと、バイク放棄地点から別の林道まで直線距離で200m程度の林のなかで迷っており、私自身の道のりでいうと300mぐらい移動していました。高度も低い里山なので、客観的には「こんなところで遭難するわけない」という場所で、振り返ってみれば助かる可能性は高かったようにも思えるので、「遭難経験」として大げさに語るのはちょっと恥ずかしい感じもします。
しかし、当時はとにかく疲れていたので長く感じたし、日が暮れてしまったら実際危険だった気はします。真っ暗になると本当に行動のしようがないし、この段階ではまだ気が張っていたのでいいのですが、気力がいったん尽きると、藪を掻き分けながら進む意欲も出ずに諦めてしまうかもしれません(実際、後日バイクを取りに行ったときの平静な精神状態では、こんなところを進もうという気には全くなれませんでした)。視界が悪い中で歩いているので、例えば深めのくぼみのようなところにハマって、怪我をして抜け出せなることもあるだろうし。
日の入りから15分ぐらい経った頃(なのでまだ真っ暗ではない)、雨が少し上がってきて、携帯電話を操作してみたら消防に繋がりました。翌日に地図で改めて確認したところ、太めの林道まで30m程度の場所にきていて、電波が回復したようです。
なお、林道が近くにあるという可能性は、もともとGPS地図でも何となく把握していました。ただ、地図で林道表記があっても実際にはほとんど使用されていない(さっきバイクを放棄したところのような)道である可能性もあるし、これまでの行程で地図をそれほど信用していなかったし、頭が混乱して距離感が読み取れておらず「近い」という実感が湧かなかったし、しかも道がある方向に向かって急な上り坂になっていたので、「希望」は感じていませんでした。
しかしさすがに、電話が通じると、かなり気が楽になりました。まず警察には、自分の個人情報と位置情報を手短に伝えました。「この林道のこの分岐を東にいった最先端の付近です」とか、「Google Mapには道として載っていないので航空写真を見てください」とか、「緯度と経度はXXです」とか。
気分が前向きになっていたのと、雨が上がってストレスが減り、電話をしているあいだ座っているので体力も回復して、このときはかなり頭が冴えていましたね(笑)。電波が途切れるかもしれないので、必要な情報をあいてに分かるよう整理して、手短にハッキリ伝えることを心がけました。
位置情報が伝わったら、あとは基本的に待つだけです。その間、何度か、警察署や救助に向かってくれているお巡りさんから電話がかかってきて、そのたびに追加情報を伝えました。お巡りさんたちも、土地勘がそれほどないのでやや道に迷っている様子ではありました。
完全に真っ暗になったのが18時前ぐらいで、救助されたのは19時42分です。その間は、気温がどんどん寒くなっていったので寝たりしないように気をつけつつ、濡れたスマホを乾かしてモバイルバッテリーで満充電にしたりしていました。
助けを待ちながら休憩してると体力はどんどん回復してきて、精神的にも冷静になりました。この状態だと、視界が真っ暗だとは言え、地図を冷静に確認して、「急坂ではあるけどこの方向に30m登れば道に出るな」というような判断ができたかもしれず、かつ体力的にも登れたと思います。なので、もしかすると、仮に電話がつならなくても自力で脱出していた可能性もあります。まぁ、冷静になれたのは連絡がついているからってのが大きいとは思うので、そう上手くはいかなかったかも知れませんが。
お巡りさんからは、「笛を鳴らしながら進んでいくので、聞こえたら電話してください」と言われていて、実際に笛が聞こえたので電話をかけつつ声を上げて場所を伝え、懐中電灯の明かりも見えて合流できました。その後は、40分ぐらい歩いて山の中の旅館に行き、そこのロビーで事情聴取。旅館の人がとても親切で、この日は他に客がいなかったので「休館」扱いになってたのに、夕食や風呂を用意してくれました。
反省点
さて反省点は色々あって、根本的には「自分の実力に見合わない林道をソロで走っていたのがよくない」というのはもちろんです。あんなに難しい路面だとは知らず、事前の調査が甘かったです。ただ、急坂でバイクが転倒するのは、最悪そこに放置して歩いて戻れば生還はできるので(近所の人に迷惑はかかりますが)、コケたり起こしたりを繰り返していた場面そのものは、命の危険を伴うようなことではないです。崖から転落するようなポイントでもないし。
で、とても後悔しているのは、「休憩する」という選択肢を過小評価したことです。電話が通じたときに実感したのですが、10分ぐらい動かずに座っていると、想像以上に体力が回復しました。で、体力が回復すると精神的にも冷静になれるので、「落ち着いて地図を見る」ということも可能だったと思います。
帰りの分岐を間違えたときや、バイクを放棄して林の中に突入していったときは、とにかく息が上がっていて、バイクの乗り降りをするだけでも辛いという状況でした。ところが、日没が近いのと雨が降っているのとで焦りもあり、休憩するよりも進むことを優先してしまいました。
今回得た最大の教訓は、「体力が限界まで消耗すると、できて当たり前の判断ができない」と身をもって痛感できたことですね。事前の知識も、自分の判断力も、極度の疲労(とアドレナリンによるハイな状態)の前では全然あてにならないです。
たとえば、「来た道を戻る」のが絶対的セオリーであることは、もともと自分でも知っていました。遭難の事例を読んだりするのは昔から好きなので、情報のない山中を闇雲に歩き回って安全な場所にたどり着く確率が極めて低いことはよく分かっています。遭難事例やらオフロードバイクの事故事例やらをみながら、「情報が取れてない場所に入るから悪いんや。情報に基づかない行動が成功する確率はほぼゼロと思うべきや」とか突っ込んでたぐらいです(笑)
ところが、自分自身でそれをやらかしました。振り返ってみると本当に不思議で、「森に吸い寄せられた」としか言いようがない感じなのですが、要するに疲れているとそこまでバカになるということですね。
登山でも、各種セオリーを事前に知ってはいても、現場でその判断ができないということは多いらしいですね。たとえば、「違和感は覚えたけど引き返さなかった」「前進することで予定ルートに合流しようとした」というのは遭難者あるあるらしく、今回の私もそうなんですが、辛かった道のりを「引き返す」という決断は意外とできない。パーティー登山の場合、声がでかい人の意見にみんな引きずられて遭難という話もよく聞きます。
日暮れが近かったので「休憩」と「地図の確認」を怠ってしまったのですが、5分10分の時間の損失より、「情報」と「冷静さ」を得ることの利益のほうが遥かに大きい。今回は本当に日没間際だったので、5分10分の差で携帯が通じる前に動けなくなった恐れもあるのですが、バイク放棄地点で冷静になっていれば、よくわからない茂みに突っ込むことがどれだけ悪手であるかを認識できた可能性はある。引き返す選択をしなかったのは、「疲れていて嫌だったから」なので、体力が回復すれば考え直せるし、茂みに突っ込むほうがどう考えてもしんどいという想像もできたのではないかと。
ちなみに、体力を消耗したのは要するにスタックに続けて転倒を繰り返したからですが、これは私のオフロード走行技術が低かったとしか言いようがない。正しいかどうかわかりませんが、恐らくしっかり休憩した上で、スタンディング(立ち乗り)で勢いよく走破すべきだったと思います。ビビってシッティングで登ろうとするからコケている感じです。また、タイヤの空気圧ももっと低くしたほうがよかったかも知れません。既定値1.5なのを林道入口で0.9まで抜いてたんですが、急坂のポイントだけでも、さらに抜いたらよかったかなと
よかった点
今回は自分の判断が根本的に間違っていたので、褒められる箇所は何もないはずですが、あえてよかった(マシだった)点もいくつか挙げておきます。「これが無かったらマジで死んでたかも」というポイントです。
(1) 一つは、携帯圏外でも使用可能なGPS地図アプリ(私はGeographicaですが、YAMAPとか色々ある)を使っていたことですね。雨と焦りでろくに見ていなかったのですが、基本的に動作はし続けていましたし、大雑把に道がありそうな方向を目指すという最低限の「情報に基づく判断」はしていたので、完全な「闇雲」ではなかったということです。結果的に不要ではありましたが、モバイルバッテリーを2台持ってたのもよかったと思います。Geographicaの画面は↓のような感じです。ベースは国土地理院地図です。

(2) バイクを放棄したのは、すでに述べたことではありますが、基本的には正しかったのではないかと思います。道が悪いところを「バイクとともに進む」のは、消耗が大きいからです。放棄のあとの行動が根本的におかしいわけで(笑)、「歩いて来た道を戻る」をすれば大過なかったと思います。
(3) スタミナがあるほうで助かりました。今回、休憩をしておらず、食事や水分を採ってなくて、携行もしてなかったのはかなりまずかったです。ただ、その割には身体がよく動いたと思いますし、少し休憩したときの回復も早かったです。もともと体質が長距離向きで、フルマラソンをやってたこともあるし、断食も何度か経験していたので、自分の体力の管理(どんな動き方をすると急激に疲れるかなど)が最低限できていたかも知れません。なお、最近はある程度身体を動かしていたのですが、慢性的な運動不足だと、ゴツいブーツを履いてリュックを背負って斜面を歩き続けるというのができなかった気もします。
(4) 遭難や事故の事例をある程度見ていたのも、ためになりました。見ていなかったら、「いま自分は死の一歩手前にいる」という自覚ができず、もっと甘い判断をしていたかも知れません。「あ、これ死ぬやつや」と思えたことで、緊張感はずっと持てました。日が暮れるまでの「時間との戦い」という側面がかなりあるので、とにかく動き続けようとしたのは正解でしたし、半信半疑ながらGPS地図を手放さなかったのは、「完全な闇雲」だといかに救いがないかを知っていたからではあります。
*1:カメラはヘルメットに付けていて、ヘルメットはバイクとともに放棄したので。